「熟議」が生まれた場所で——学生トライアル「Let's タマクエ!」から見える協働のまちづくり
6月20日(土)、みやま公園を舞台に、協働まちづくり事業補助金の学生トライアル版として「Let's タマクエ!~玉野のいいとこ再発見~」が開催されました。
大雨予報という悪天候の中での開催となったこのイベント。しかし、その過程で生まれた「ある光景」こそが、このプロジェクトの本質——すなわち、地域と若者が一緒に創る「協働のまちづくり」の形を、私たちに見せてくれたのです。

前夜の「熟議」——3つの意見、1時間半の対話
6月19日、実行委員会が開かれました。
当日の天気予報は大雨。参加キャンセルも相次いでいました。テーブルには3つの選択肢が置かれました。「2コースとも実施」「深山コースのみ実施」「完全中止」。
予定では、玉野の海沿いを巡る「宇野・築港コース」と、みやま公園周辺の「深山コース」の2つのコースを用意していました。しかし、天気と参加状況を踏まえて、この実行委員会で最終判断を下す必要があったのです。
実行委員の生徒たちの意見は分かれました。安全を優先する声、せっかくなので何らかの形で実施したい想い、悩みながらの発言。その話し合いは、1時間半にも及びました。
単なる多数決ではなく、一人ひとりが自分の考えや思いを語り合い、相互に理解を深めていく——その過程こそが「熟議」です。
同席していた玉野市観光協会の地域おこし協力隊・北島さんからは、こんな言葉が投げかけられました。
「君たちがどんな結論を出しても、観光協会は全力でサポートするよ」
その言葉の重みはどのくらい大きかったでしょうか。「大人が評価する」のではなく、「生徒たちが主人公である」という信頼と承認——それが、生徒たちの判断を支えたはずです。
結果として、生徒たちは「深山コースのみ実施」という判断を下しました。
しかし、その理由は人それぞれだったといいます。安全を重視する声もあれば、「それでも何かやることに意味がある」という想いもあったはずです。異なる価値観を抱えながらも、「これなら一緒にやれる」という共通地点を見つけていく——それが民主的な意思決定の本来の姿ではないでしょうか。
教育現場にいた先生からは、こんな感想が聞かれました。
「熟議とはこういうことだと実感した」
その一言が、このイベントの教育的価値を何より物語っています。
当日のイベント——地域との「つながり」が形になった瞬間
6月20日朝、みやま公園の道の駅に集合したのは、20名を超える玉野高校生たち。ボランティアとして参加する生徒も多くいました。
受付場所の変更案内、参加者の誘導、イベント全体の運営——彼らは、それぞれが自分の役割を担いながら、このプロジェクトを支えていました。
興味深いことに、ボランティアとして来ていながら、自らも「タマクエ」に出場するという生徒もいました。その生徒は、こう話してくれたといいます。
「普段は深山公園を歩いて回る機会がないけれど、きっと楽しいと思う」
この言葉には、「自分たちの地元を改めて発見する喜び」が凝縮されています。地元を離れることが「進学」「就職」の選択肢となる時代、地元を「好きになる」「つながりを感じる」ことの価値は、何物にも代え難いのではないでしょうか。
受付では、玉野市観光協会の皆さんが学生たちをサポート。「タマクエ」というイベントを通じて、学校の枠を超えた地域の大人たちとの関係が生まれました。
参加者12グループが、雨の中、最後まで深山公園を巡りました。14時、無事イベントは終了。学生たちの笑顔は、何より成功のあかしだったに違いありません。
なぜ「協働のまちづくり」に、熟議が必要なのか
このプロジェクトを支援していて、私たちが目にしたのは、「イベント成功のための学生活用」ではなく、「学生が主人公として、地域と対話する過程」でした。
協働のまちづくりとは、大人が「こうあるべき」と決めたレールの上を、若者が走るものではありません。むしろ、異なる立場、異なる価値観を持つ人たちが、対話と熟議を通じて「一緒にやるべきこと」を見つけていくプロセスなのです。
今回、生徒たちが向き合ったのは、単なる「天気判断」ではなく、以下のような問いでした。
- 「安全とチャレンジのバランスをどう取るのか」
- 「地域の人たちに対して、私たちは何ができるのか」
- 「このイベントを通じて、誰に何を届けたいのか」
これらの問いに向き合い、多様な意見を聞き、自分たちの考えを言葉にする。その経験こそが、これからの「地域を担う人材」としての土台になるのです。
高校3年生たちへ
このプロジェクトの中心となったのは、高校3年生たちです。彼らは、これからそれぞれが進学や就職という道を歩み始めます。
「タマクエ」は、単なるイベントで終わるべきではありません。仲間と悩み、話し合い、決断し、地域の人と出会った経験。その経験こそが、これからの人生を支える基盤になるのです。
北島さんの「君たちがどんな結論を出しても、全力でサポートするよ」という言葉の意味も、時間が経つにつれ、より深く理解されていくのではないでしょうか。
大人が信頼する。失敗を恐れず挑戦できる環境がある。地域とのつながりがある。そうした経験こそが、若者たちが「自分たちの地域を好きになる」最大の資源なのです。
むすびに——地域は、若者を信頼できるか
協働のまちづくり事業が目指すのは、イベント数の増加や参加者数の拡大ではなく、「世代を超えた対話と信頼関係の構築」のはずです。
その観点から見たとき、今回の「Let's タマクエ!」は、その目標を大きく達成した事例だと感じます。
なぜなら、ここには以下の要素が揃っていたからです。
- 学生の主体性:生徒たちが、最終的な意思決定権を持っていた
- 大人の信頼:玉野市観光協会や学校の先生が、学生たちを全力でサポートしていた
- 熟議の場:異なる意見を尊重し、対話を通じて判断を下す環境があった
- 地域とのつながり:イベントを通じて、学生たちが地域の大人と出会い、関係性が生まれた
玉野市が「協働のまちづくり」を推進する中で、このような事例が増えていくことを心から願っています。
そして、若者たちが「自分たちの地域で、自分たちが何かを変えることができる」という実感を持つこと。それが、結果的に地域全体の活性化につながるのだと、私たちは確信しています。
学生の皆さん、そして支えてくださった関係者の皆さん、本当にお疲れさまでした。
次のステップに向けて、一緒に前に進みましょう。
著者
みらいづくりセンター

