特定非営利活動法人 玉野SDGsみらいづくりセンター
日記

【コーディネーター日記】玉野高校。「視野を広げる」って、結局なんのこと?

2026年5月13日西田井祐也5分で読めます

「視野を広げてほしい」——よく聞く言葉だけど、あなたはどんな景色を思い浮かべる? 実は、同じ言葉でも人によってイメージがまるで違う。「早めに出発しよう」が家族でプチもめる原因になるのと、まったく同じ構造だ。コーディネーターとして先生たちと探究授業の打ち合わせをする中で気づいた、「言葉の景色を揃えることの大切さ」と、アウトプットが学びを深める理由を、心理学・学習科学の知見を交えながら書いた。

「視野を広げる」って、結局なんのこと?

「早めに出発しよう」

この一言、あなたはどう解釈する?

5分前? 15分前? 30分前?

言葉は同じなのに、頭の中の「早め」が人によってぜんぜん違う。家族や恋人と待ち合わせのたびにプチもめるのは、だいたいこれが原因だ。

今日の打ち合わせで、そのことをまた実感した。


今日の仕事

各学年の総合的な探究を担当する先生たちと、それぞれ個別に打ち合わせをした日だった。午後は主幹の先生とも時間をもらい、今年度の探究全体について話した。

こういうとき、私が必ず最初に聞くようにしていることがある。

「そもそも、なんでこの授業をしたいんですか?」

「この授業で、生徒に身につけてほしい力ってなんですか?」

試しているわけじゃない。一緒に設計図を引くために、まず「どこへ向かいたいのか」を確認したいのだ。答えを持ち込むのがコーディネーターの仕事じゃなくて、問いを一緒に掘り下げるのがこの仕事だと思っている。


「視野を広げてほしい」

ある先生がこう言った。

「生徒に視野を広げてほしいんですよね」

ピンときた。こういう言葉との出会いが、この仕事の醍醐味だ。

でも正直、「視野を広げる」って、めちゃくちゃ広い言葉だと思う。

たとえば、こういう体験、全部「視野が広がった」と言える。

  • 地元を出て初めて都会に行ったとき
  • 価値観の全然違う人と深く話したとき
  • 好きじゃなかった食べ物が、お店によっては美味しかったとき
  • 「自分ってこういう人間だったのか」と気づいたとき

どれも正解だ。でも授業として設計するなら、どのイメージで動くかによって、やることがまるで変わってくる。「早めに出発しよう」問題と同じで、言葉が一致していても、頭の中の景色がバラバラなまま進むと、どこかで必ずズレが生まれる。


言葉にすることが、思考をつくる

だからこそ「視野ってなんだろう」を、一緒にあ〜でもない、こ〜でもないと話す時間が大事だと思っている。

これ、感覚論じゃなくて科学的にも面白い話がある。

心理学者のヴィゴツキーは「思考は言葉に表現されるのではなく、言葉の中で生まれる」と言った。つまり頭の中にぼんやりあるイメージは、誰かに話そうとして初めて輪郭をもった考えになる、ということだ。

「美味しかった」を友達に伝えようとしたとき、「えっと、甘みがあって、でも後味はさっぱりしてて……」って考え始めるあの感じ。あれが思考が生まれる瞬間だ。「美味しかった」のままにしておくと、記憶はぼんやりしたまま終わる。

「視野を広げたい」という先生の言葉も、まだ言語化の途中にある大切なビジョンだった。それを丁寧に引き出して、言葉にしていくのがコーディネーターの役割のひとつだと思っている。

そしてもうひとつ、チームで仕事をするときに「共有メンタルモデル」という概念がある。目標や役割についてのイメージを言語化して揃えると、チームのパフォーマンスが上がることが研究でも示されている(Cannon-Bowers et al., 1993)。「早めに出発しよう」の認識が揃っているカップルほど、旅行がうまくいく、みたいな話だ。探究授業も同じで、先生とコーディネーターが「視野」の景色を揃えることが、授業の質に直接つながる。


「アウトプットに出す」という方針

主幹の先生との話で出たのが、アウトプットの場にどんどん出していくという方針だった。

学んだことを誰かに話したり、発表したりする機会を意識的につくっていこう、という話だ。

これも、学習科学的にちゃんと根拠がある。RoedigerとKarpickeという研究者の実験(2006)では、同じ内容を何度も読み返すより、一度読んで「思い出そうとする」ほうが、長期的な記憶の定着がはるかに高いことが示されている。

勉強したことを友達に話して説明したら、自分の理解がグッと深まった——そういう経験、誰しもあるんじゃないかと思う。あれは気のせいじゃなくて、脳が「アウトプット」によって記憶の回路を強化しているからだ。

発表やプレゼン、外部への発信は、単なる成果披露じゃない。学びの質そのものを変える行為だ。探究授業にアウトプットの場をつくることには、ちゃんと理由がある。


打ち合わせ三連戦だったけど、どの時間にも「問いが生まれた瞬間」があった。

コーディネーターの仕事は地味に見えて、言葉が生まれる瞬間に立ち会う仕事だと思っている。

「視野を広げてほしい」——その一言を丁寧に解きほぐしていくことが、今年の探究の、最初の一歩になるかもしれない。


NPO法人玉野SDGsみらいづくりセンター
西田井

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西田井祐也