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コーディネーター日記2026.10.15

探究学習は、ふざけていい。商工高校のCanva講座で気づいたこと

西田井祐也|社会教育士副理事長/地域学校連携コーディネーター・社会教育士読了 7分

進捗はクラスごとにバラバラ。用意してきた資料も、そのままでは使えない。全員に目が届いたかと聞かれたら、正直、届いていません。

それでも授業を終えた帰り道に出てきた感想は、「やってよかった」のひと言でした。

今日は玉野商工高校で、Canva講座の日でした。デザイナーさんを3名お招きして、生徒が企業のチラシをつくる授業を一緒に進めました。この記事は、うまくいかなかった部分も含めて、その一日の記録です。探究学習の授業づくりに悩んでいる先生や、学校と地域の連携に関わっている方の、何かのヒントになればうれしいです。

探究学習の授業が「想定どおり」にいかなかった日

この講座は、デザイナーさんが来る前に、学校としてのCanva授業を2回はさんでいました。だから当日は、ある程度チラシが形になっているはずでした。

ところが教室に入ってみると、クラスによって進み具合がまるで違う。聞いていたよりも、ほとんど進んでいないクラスもありました。用意していたものは、そのままでは使えません。

クラスの差、先生ごとの進め方の差、そして生徒一人ひとりの差。バラバラなものを全部まとめて受け止めきることは、当然ながらできませんでした。

授業の前に、先生と最終の打ち合わせをしていました。玉野高校でCanva講座をやったときの成功事例と失敗事例をもとに、デザイナーさんに何を事前に共有しておくか、すり合わせたんです。あの時間があったから、先生の中にも小さな発見があったと感じています。ただ、現場は打ち合わせの想定を軽々と超えてきました。

それでも「やってよかった」と思えたのは、授業の中で、生徒たちのこだわりや表現が、ちゃんと垣間見えたからです。

「このチラシいいっすよね」と声をかけてきた生徒

印象に残った場面があります。

普段はたぶん、やんちゃなタイプの生徒です。その子が、自分のつくったチラシを見せながら「このチラシいいっすよね」と声をかけてきました。

もちろん「いいよね」と返しました。そこから、余白の話、フォントの話をしました。

そして、ひとつだけアドバイスをしました。

このチラシは企業のためのものだから、企業らしさを出したほうがいいよね。

ロゴなのか、写真なのか、働く姿なのか。それがないと、パッと見たときに、どこの会社のチラシかわからない。そう伝えたら、彼は「あ、確かに」と言いました。そして、そのあと、彼なりの工夫を加えていったんです。

ここで大事だったのは、アドバイスの中身よりも順番だったと思います。先に「いいよね」があって、そのあとに「こうするともっとよくなる」が来た。だから「あ、確かに」が、素直に出たのかもしれません。

はにかむ姿は、言葉にしてもらえた瞬間に生まれる

進捗がバラバラで、一対一で十分に話せる時間は限られていました。それでも、こちらが「ここがいいよね」「この表現いいよね」と言葉にしてあげるたびに、はにかむ姿、うれしそうな姿が見えました。

心理学には、自己決定理論という考え方があります。人が自分から動き出すには、「自分で決めている」という感覚と、「自分にはできる」という感覚が大切だ、という話です。

生徒がはにかむのは、「自分にはできる」という感覚が、ふっと立ち上がった瞬間なのだと思います。

ここで気をつけたいのは、ほめ方です。ざっくりした「いいね」よりも、「この余白の取り方がいいよね」のように、どこがいいのかを言葉にしたほうが、本人の中に残ります。デザイナーさんたちが、生徒に呼び止められるたびに、具体的に言葉を返してくれていたのも、とてもありがたい光景でした。

私やデザイナーさんを呼び止めて、「どうしたらいいですか」「こうしたらいいですか」と聞いてくれる生徒もいました。質問が出るのは、「自分のものをよくしたい」という気持ちがあるからです。これも、今日の収穫でした。

前回から引っかかっていた壁

前回のCanva授業のあと、生徒の様子から、ひとつの壁を感じていました。

生徒たちは、毎日が「超具体」の中にあります。だから、自分が何に興味を持っているのか、どこに惹かれたのかを、少し引いた目で見て、言葉にすることが苦手です。ツールの使い方を覚えて、言葉にして、自分らしさも出す。これを同時にやるのは、マルチタスクになりすぎているんじゃないか、と感じました。

手が止まっている子が多かったのは、ツールの使い方がわからないからというより、そもそも何を表現するのか、方向が定まっていなかったからかもしれません。

本来、ポスターやチラシは、自分の思いだけで作るものではありません。依頼してくれるクライアントがいて、はじめて成り立つものです。今回はそこにも気づきがありました。ヒアリングもないまま、自分以外の「何か」を題材にチラシをつくるには、もっと小さな階段が必要なのだと思います。

今日の「企業らしさを出したほうがいいよね」というアドバイスは、その階段の一段目だったのかもしれません。

教科書として教えるのか、自己表現として使うのか

今日の授業で、いちばん考えさせられたのが、授業の軸です。

Canvaを使って、ポスターやチラシをつくる。そのとき、ツールの使い方やデザインの基本を学ぶ、いわば教科書的な授業なのか。それとも、そんなものは一度無視して、「あなたのクリエイティブを、まず表現してみようよ」という授業なのか。

この軸を、もっと細かく定めておくべきでした。軸が曖昧だと、先生も、デザイナーさんも、私も、それぞれが少しずつ違う方向を見てしまいます。生徒から見ても、「結局、何を求められているのか」がわかりにくくなります。

商工高校は、規律やルールを大切にしている学校です。何もない状態で「自由にやっていいよ」と言われても、自由にはできません。だから、ある程度のルールやレクチャーは必要だと思います。

では、どこまでが支えになるルールで、どこからが自発性を妨げるルールなのか。そもそも、この授業にそこまで求める必要はあるのか。そこは、長尾先生ともっと話さなければいけない部分です。次年度に向けた、いい意味での反省点になりました。

探究は、面白くなきゃいけないし、ふざけなきゃいけない

授業のあとのフィードバックで、いちばん腑に落ちた言葉があります。

探究は、面白くなきゃいけないし、ふざけなきゃいけない。

集中させることは、すごく難しい。でも、集中させようとして、マニュアルのような進め方を固めていくほど、場の空気は硬くなります。もっと肩の力を抜いて、楽しむ場をつくる。マニュアルじみたことをやらない、というのも、探究の醍醐味のひとつなんじゃないか、と思います。

組織行動学者のエイミー・エドモンドソンは、1999年の研究で「心理的安全性」という考え方を示しました。簡単に言えば、「ここでは、変なことを言っても大丈夫」と思える状態のことです。ふざけていい場は、そのまま、失敗しても大丈夫な場でもあります。

「このチラシいいっすよね」と気軽に声をかけてくれた彼は、あの時間、たぶん「ここでは見せても大丈夫だ」と思えていたのだと思います。だから、見せてくれたし、指摘も素直に受け取れました。

ふざけられる場だから、本気の工夫が出てくる。

これが、今日の授業でいちばん持ち帰りたかったことです。

コーディネーターとして、次にやること

Canva講座としては、今日で終わりです。でも、チラシは完成していません。引き続き、完成形に向けて、生徒たちに伴走していきます。

次にやることは、大きく二つです。

  • できあがったチラシを、各企業にきちんと届ける
  • 協力してくれたデザイナーさんに、結果とアンケートを共有する

この段取りは、先生とやりとりしながら進めます。届けて終わり、ではなく、生徒のチラシが企業に届いて、デザイナーさんにも返っていく。そこまで含めて、はじめて一つの循環になると考えています。

そして次年度。この授業を「学ぶ授業」にするのか、「表現する授業」にするのか。軸を決めて、授業をつくり直していきます。

締めに

玉野や岡山のために時間を使ってくれるデザイナーさんがいて、生徒がいて、先生がいる。今日の教室には、そのすべてがありました。

うまくいかなかったことのほうが、多い一日でした。それでも「やってよかった」と思えたのは、はにかむ顔があったからです。

探究は、面白くて、ふざけていい。そう思える授業を、次はもう少し、ちゃんと設計してみたいと思います。たぶん、設計しすぎないくらいが、ちょうどいいんですけどね。


玉野高校・玉野商工高校 コーディネーター

西田井祐也

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西田井祐也|社会教育士

副理事長/地域学校連携コーディネーター・社会教育士

市民・団体・企業・行政をつなぎ、相談・伴走・情報発信で地域の活動を支えています。

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