探究学習は、ふざけていい。商工高校のCanva講座で気づいたこと
進捗はクラスごとにバラバラ。用意してきた資料も、そのままでは使えない。全員に目が届いたかと聞かれたら、正直、届いていません。
それでも授業を終えた帰り道に出てきた感想は、「やってよかった」のひと言でした。
今日は玉野商工高校で、Canva講座の日でした。デザイナーさんを3名お招きして、生徒が企業のチラシをつくる授業を一緒に進めました。この記事は、うまくいかなかった部分も含めて、その一日の記録です。探究学習の授業づくりに悩んでいる先生や、学校と地域の連携に関わっている方の、何かのヒントになればうれしいです。
探究学習の授業が「想定どおり」にいかなかった日
この講座は、デザイナーさんが来る前に、学校としてのCanva授業を2回はさんでいました。だから当日は、ある程度チラシが形になっているはずでした。
ところが教室に入ってみると、クラスによって進み具合がまるで違う。聞いていたよりも、ほとんど進んでいないクラスもありました。用意していたものは、そのままでは使えません。
クラスの差、先生ごとの進め方の差、そして生徒一人ひとりの差。バラバラなものを全部まとめて受け止めきることは、当然ながらできませんでした。
授業の前に、先生と最終の打ち合わせをしていました。玉野高校でCanva講座をやったときの成功事例と失敗事例をもとに、デザイナーさんに何を事前に共有しておくか、すり合わせたんです。あの時間があったから、先生の中にも小さな発見があったと感じています。ただ、現場は打ち合わせの想定を軽々と超えてきました。
それでも「やってよかった」と思えたのは、授業の中で、生徒たちのこだわりや表現が、ちゃんと垣間見えたからです。
「このチラシいいっすよね」と声をかけてきた生徒
印象に残った場面があります。
普段はたぶん、やんちゃなタイプの生徒です。その子が、自分のつくったチラシを見せながら「このチラシいいっすよね」と声をかけてきました。
もちろん「いいよね」と返しました。そこから、余白の話、フォントの話をしました。
そして、ひとつだけアドバイスをしました。
このチラシは企業のためのものだから、企業らしさを出したほうがいいよね。
ロゴなのか、写真なのか、働く姿なのか。それがないと、パッと見たときに、どこの会社のチラシかわからない。そう伝えたら、彼は「あ、確かに」と言いました。そして、そのあと、彼なりの工夫を加えていったんです。
ここで大事だったのは、アドバイスの中身よりも順番だったと思います。先に「いいよね」があって、そのあとに「こうするともっとよくなる」が来た。だから「あ、確かに」が、素直に出たのかもしれません。
はにかむ姿は、言葉にしてもらえた瞬間に生まれる
進捗がバラバラで、一対一で十分に話せる時間は限られていました。それでも、こちらが「ここがいいよね」「この表現いいよね」と言葉にしてあげるたびに、はにかむ姿、うれしそうな姿が見えました。
心理学には、自己決定理論という考え方があります。人が自分から動き出すには、「自分で決めている」という感覚と、「自分にはできる」という感覚が大切だ、という話です。
生徒がはにかむのは、「自分にはできる」という感覚が、ふっと立ち上がった瞬間なのだと思います。
ここで気をつけたいのは、ほめ方です。ざっくりした「いいね」よりも、「この余白の取り方がいいよね」のように、どこがいいのかを言葉にしたほうが、本人の中に残ります。デザイナーさんたちが、生徒に呼び止められるたびに、具体的に言葉を返してくれていたのも、とてもありがたい光景でした。
私やデザイナーさんを呼び止めて、「どうしたらいいですか」「こうしたらいいですか」と聞いてくれる生徒もいました。質問が出るのは、「自分のものをよくしたい」という気持ちがあるからです。これも、今日の収穫でした。
前回から引っかかっていた壁
前回のCanva授業のあと、生徒の様子から、ひとつの壁を感じていました。
生徒たちは、毎日が「超具体」の中にあります。だから、自分が何に興味を持っているのか、どこに惹かれたのかを、少し引いた目で見て、言葉にすることが苦手です。ツールの使い方を覚えて、言葉にして、自分らしさも出す。これを同時にやるのは、マルチタスクになりすぎているんじゃないか、と感じました。
手が止まっている子が多かったのは、ツールの使い方がわからないからというより、そもそも何を表現するのか、方向が定まっていなかったからかもしれません。
本来、ポスターやチラシは、自分の思いだけで作るものではありません。依頼してくれるクライアントがいて、はじめて成り立つものです。今回はそこにも気づきがありました。ヒアリングもないまま、自分以外の「何か」を題材にチラシをつくるには、もっと小さな階段が必要なのだと思います。
今日の「企業らしさを出したほうがいいよね」というアドバイスは、その階段の一段目だったのかもしれません。
教科書として教えるのか、自己表現として使うのか
今日の授業で、いちばん考えさせられたのが、授業の軸です。
Canvaを使って、ポスターやチラシをつくる。そのとき、ツールの使い方やデザインの基本を学ぶ、いわば教科書的な授業なのか。それとも、そんなものは一度無視して、「あなたのクリエイティブを、まず表現してみようよ」という授業なのか。
この軸を、もっと細かく定めておくべきでした。軸が曖昧だと、先生も、デザイナーさんも、私も、それぞれが少しずつ違う方向を見てしまいます。生徒から見ても、「結局、何を求められているのか」がわかりにくくなります。
商工高校は、規律やルールを大切にしている学校です。何もない状態で「自由にやっていいよ」と言われても、自由にはできません。だから、ある程度のルールやレクチャーは必要だと思います。
では、どこまでが支えになるルールで、どこからが自発性を妨げるルールなのか。そもそも、この授業にそこまで求める必要はあるのか。そこは、長尾先生ともっと話さなければいけない部分です。次年度に向けた、いい意味での反省点になりました。
探究は、面白くなきゃいけないし、ふざけなきゃいけない
授業のあとのフィードバックで、いちばん腑に落ちた言葉があります。
探究は、面白くなきゃいけないし、ふざけなきゃいけない。
集中させることは、すごく難しい。でも、集中させようとして、マニュアルのような進め方を固めていくほど、場の空気は硬くなります。もっと肩の力を抜いて、楽しむ場をつくる。マニュアルじみたことをやらない、というのも、探究の醍醐味のひとつなんじゃないか、と思います。
組織行動学者のエイミー・エドモンドソンは、1999年の研究で「心理的安全性」という考え方を示しました。簡単に言えば、「ここでは、変なことを言っても大丈夫」と思える状態のことです。ふざけていい場は、そのまま、失敗しても大丈夫な場でもあります。
「このチラシいいっすよね」と気軽に声をかけてくれた彼は、あの時間、たぶん「ここでは見せても大丈夫だ」と思えていたのだと思います。だから、見せてくれたし、指摘も素直に受け取れました。
ふざけられる場だから、本気の工夫が出てくる。
これが、今日の授業でいちばん持ち帰りたかったことです。
コーディネーターとして、次にやること
Canva講座としては、今日で終わりです。でも、チラシは完成していません。引き続き、完成形に向けて、生徒たちに伴走していきます。
次にやることは、大きく二つです。
- できあがったチラシを、各企業にきちんと届ける
- 協力してくれたデザイナーさんに、結果とアンケートを共有する
この段取りは、先生とやりとりしながら進めます。届けて終わり、ではなく、生徒のチラシが企業に届いて、デザイナーさんにも返っていく。そこまで含めて、はじめて一つの循環になると考えています。
そして次年度。この授業を「学ぶ授業」にするのか、「表現する授業」にするのか。軸を決めて、授業をつくり直していきます。
締めに
玉野や岡山のために時間を使ってくれるデザイナーさんがいて、生徒がいて、先生がいる。今日の教室には、そのすべてがありました。
うまくいかなかったことのほうが、多い一日でした。それでも「やってよかった」と思えたのは、はにかむ顔があったからです。
探究は、面白くて、ふざけていい。そう思える授業を、次はもう少し、ちゃんと設計してみたいと思います。たぶん、設計しすぎないくらいが、ちょうどいいんですけどね。
玉野高校・玉野商工高校 コーディネーター
西田井祐也



