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コーディネーター日記2026.09.10

「聞くだけの50分」に、何を仕込むか。|商工高校コーディネーター日記

西西田井祐也|社会教育士玉野SDGsみらいづくりセンター読了 4

「聞くだけの50分」に、何を仕込むか。

玉野商工高校の会議室。先生方とCanva講座の打ち合わせをしていた。日程は10月16日、時間はちょうど50分。決まった瞬間、頭の中で小さな警報が鳴った。——50分、生徒はただ座って聞くだけの時間になってしまわないか。

教えることは、実はいちばん退屈を生みやすい行為だ。正解を渡した瞬間、生徒の中で動いていた「考える」というスイッチがオフになる。今日決めなければならなかったのは、日程や時間割ではなく、「このスイッチをどう入れっぱなしにするか」だった。


現場で起きていたこと

商工高校の生徒たちは、この講座を迎える前に、すでにポスター制作を2回経験している。ゼロから何かを作る段階はもう終わっていて、今回はその先——「作ったものを、どう良くするか」を学ぶ時間になる。

操作面の簡単なフォローは、私が教室に入って担当する。核になるのは、デザイナー陣によるレクチャーだ。既存のポスターを、デザイン思考の視点で見直す。なぜこの配置なのか、なぜこの色なのか、誰のために作られているのか——「正解」ではなく「問い」を渡すレクチャーにしたい。

デザイナーは現在3名(石井さん・田坂さん・宮本さん)を確保できている。理想は4名だったが、日程が近く、追加は難しい。だから、Bプランとして「CDクラスを合流させる」という案も出てきた。人数が増えれば、レクチャーだけで終わる時間の比率がさらに上がる。だからこそ、「聞くだけにしない工夫」が今日いちばんの課題として残った。


なぜ「聞くだけ」が問題なのか

ここで少し立ち止まって考えたい。デザイン思考を教える、ということそのものに、どれくらいの意味があるのか。

答えのひとつは、日本の教育がいま置かれている、少し奇妙な状況にある。2022年のPISA調査で、日本は数学的リテラシーで世界1位、科学的リテラシーでもトップ水準、読解力でも上位に入り、3分野すべてで世界トップレベルだった。ところが、同じPISA2022には「創造的思考力(Creative Thinking)」というオプション調査が新設されていたにもかかわらず、日本はこの項目に参加していない。

学力は世界トップ。でも、創造性という指標は、そもそも測ろうとしなかった。この事実は、批判のための材料ではなく、「教えられること」と「測られていないこと」の間に、いま最も伸びしろのある領域があるということを示しているように思う。

一方で、デザイン思考そのものの効果を示すデータは、世界中に積み上がっている。11カ国・1,600人以上の学生を対象にしたSTEM教育の分析では、デザイン思考を取り入れた授業は、従来型の授業に比べて創造性を高める効果が統計的にかなり大きいことが示された(効果量d=0.876という、教育研究の文脈では「大きい」と言える数値)。また、910人の大学生を対象にした別の研究では、デザイン思考の授業を受けた学生の問題解決力と創造性が、本人の自己評価だけでなく、同級生や教員から見た評価でも一貫して向上していたという結果も出ている。

「デザイン思考は、才能のある人だけの特別なスキルではなく、訓練で伸びるプロセスだ」——これは複数の研究に共通する結論だ。

世界経済フォーラムが1,000社以上の企業データをもとに発表した「Future of Jobs Report 2025」でも、創造的思考力は2030年に向けて最も重要度が増すコアスキルのひとつに挙げられている。AIがデータ処理や定型作業を担うようになるほど、「何を作るべきか」「何を問うべきか」を考える力の価値が上がっていく、という理屈だ。

つまり、デザイナーが生徒に伝えようとしているのは、ポスターの直し方という技術ではない。「なぜ」を自分の中から掘り出す練習なのだと思う。これは心理学でいう内発的動機づけ——外から評価されるためではなく、自分の中の興味や納得感で動く状態——にとても近い。誰かに言われた通りに直すのではなく、自分の目で「ここが引っかかる」と気づけるかどうか。そこにこの50分の価値がある。


コーディネーターとしての役割

私の仕事は、教える人でも、教えられる人でもない。地域のデザイナーと、学校の生徒の間に立って、その50分がただの発表会にならないように場を設計することだ。

「面白いは最強だ」というのが、自分がずっと持っている感覚だ。デザイン思考の話も、心理学の言葉を使えば正しく説明できる。でも、正しさだけでは生徒は動かない。動くのは、「面白い」と感じた瞬間だけだ。だから今回も、レクチャーの合間に、生徒自身が手を動かす時間をどう挟み込むかを、まだ検討している最中だ。

地域のクリエイティブな人材(今回はデザイナーという専門職)が、学校という現場に入り、生徒に直接向き合う。これは玉野という小さな街だからこそ実現しやすい循環でもある。都市部では分業が進みすぎて、専門家と生徒がこんなに近い距離で出会うことは、実はそう多くない。


まだ答えは出ていない

50分をどう組むかは、まだ確定していない。デザイナーが4名になるのか、CDクラスと合流するのか、生徒に手を動かす時間を作れるのか——決まっていないことの方が多い。

でも、「聞くだけにしない」という問いを立てたこと自体に、たぶん意味がある。正解を急いで決めるより、この違和感を持ち続けたまま10月16日を迎えたいと思っている。


玉野高校・玉野商工高校 コーディネーター 西田井祐也

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西田井祐也|社会教育士

玉野SDGsみらいづくりセンター

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