グリッドとは

「やり抜く力」の半分は、成績をほとんど予測していませんでした。
グリットは「情熱」と「粘り強さ」の掛け算だと説明されます。ところが73件の研究、のべ66,807人分のデータを集めて計算し直すと、成績と結びついていたのは粘り強さの側だけ。情熱の側は、ほぼ動きませんでした。
この記事では、内訳をたどりながら、では教室で何を育てればいいのかまで下ろしていきます。
半分は効いていなかった
2007年、心理学者のアンジェラ・ダックワースは、陸軍士官学校ウエストポイントの新入生1,218人に質問紙を配りました。入学直後には、通称「ビースト・バラックス」と呼ばれる6週間の初期訓練が待っています。
この学年の5.8%、71人が脱落しました。
誰が残るかを当てたのは、入学審査の総合点ではありません。学力・体力・リーダーシップを合成したこの点数は、脱落の予測に効いていませんでした。
効いたのは質問紙のほう。グリット得点が平均より1標準偏差高い候補生は、訓練を完走する見込みが1.6倍でした。
2年後に入学した1,308人でも同じでした。誠実性の得点も入学審査の総合点も完走を予測せず、グリットだけが残っています。
痛快な話です。だからこの研究は広まりました。
問題はここからです。
2017年、アイオワ州立大学のマーカス・クレデらが、それまでに発表されたグリット研究73件、標本88件、のべ66,807人分を集めて再計算しました。メタ分析と呼ばれる手法で、個々の研究の当たり外れをならして平均的な効き目を見ます。
出てきた数字は、グリット全体と学業成績の相関がρ=.18。心理学の基準でも小さめの部類です。
内訳を割ると、様子がもっと変わります。グリット尺度は二つの部分でできています。「興味の一貫性」——一般に情熱と訳される側と、「努力の粘り強さ」。成績との相関は、粘り強さがρ=.26、興味の一貫性がρ=.10でした。
.10は、統計的には「ほとんど関係がない」の隣にある数字です。
二人で登る山の話
グリットを、二人一組の登山隊だと思ってください。
一人は「どの山に登るかを決め、決めたら変えない係」。もう一人は「今日も足を出す係」。
荷物を頂上まで運んだのは、ほぼ後者でした。
前者がサボっていたわけではありません。地図を広げて山を選ぶ姿は、写真映えという点ではむしろ勝っています。ただ、標高をどれだけ稼いだかで測ると、貢献がほとんど見えなかった。
さらに厄介なのは、二人の働きを足して一つの点数にしたときです。
クレデらは、二つの得点を合成すると成績を予測する力に明確な損失が生じると書いています。
実際、まじめさを表す性格特性(誠実性)を差し引くと、グリット全体は高校の成績のばらつきをまったく説明しませんでした。大学の成績への上乗せもΔR²=.004。ほぼゼロです。
一方、粘り強さだけを取り出すと、高校の成績への上乗せはΔR²=.085まで上がります。
同じデータです。足すか、分けるか。それだけで結論がひっくり返りました。
グリットとは何か
用語を整理しておきます。
グリット(grit)は「長期的な目標に対する情熱と粘り強さ」と定義される概念です。日本語では「やり抜く力」。提唱者はダックワースで、2016年の同名の著書によって教育現場へ一気に広まりました。
測り方は自己申告の質問紙です。12問の原版と8問の短縮版があり、各項目に5段階で答えた平均点が、その人のグリット得点になります。
前回の成長マインドセットが「どう考えるか」の話だったとすれば、グリットは「どう続けるか」の話です。
情熱は熱さではない
ここで、たいていの人がつまずきます。
「情熱」と聞くと、目を輝かせて語る姿を思い浮かべます。ところが尺度が測っているのは、そこではありません。
測っているのは、興味がブレないこと。「新しい計画に気をとられて、前のものがおろそかになる」といった項目に「あてはまらない」と答えるほど、点が上がります。熱量ではなく、乗り換えの少なさ。
楽器で言えば、こうなります。
情熱の側が測るのは「10年、同じ楽器を続けているか」。粘り強さの側が測るのは「今日、譜面台の前に座ったか」。
成績と結びついていたのは、後者のほうでした。
なぜ半分は効かないのか
理由を三つに分けます。
誠実性という別名
一つ目。グリットは、心理学が100年近く測ってきた性格特性とほぼ重なります。
ビッグファイブの一つ、誠実性(conscientiousness)。まじめさ、計画性、几帳面さをまとめた特性です。クレデらのメタ分析では、グリット全体と誠実性の相関がρ=.84でした。
この数字の意味は、比較すると見えてきます。別々に開発された誠実性の尺度どうしを突き合わせても、相関は.63ほど。つまりグリットは、誠実性の尺度どうしより誠実性に似ていた。
クレデは取材に対し、これを「新しい瓶に入れた古いワイン」と表現しています。
同じ山に、新しい名前の登山口ができた。看板は新しい。登る山は同じです。
足すと情報が消える
二つ目。合成そのものに問題があります。
二つの下位尺度の相関はρ=.60。関係はあるけれど、同じものではありません。片方は効き、片方はほとんど効かない。それを平均すれば、効いている側の信号は薄まります。
長距離走のラップ表を思い浮かべてください。
前半5キロと後半5キロを別々に並べれば、後半で失速したことが一目で分かります。ところが「10キロの平均ペース」だけを残すと、失速は消えます。数字は残っているのに、いちばん知りたかったことが読めない。
グリット得点で起きているのは、これと同じことです。
クレデらは、グリットを二つの下位因子を持つ上位概念として扱う根拠は現在の証拠では支持されない、と結論づけました。かなり強い言い方です。
効く場面が偏っている
三つ目。グリットが効いた場面には、はっきりした共通点があります。
2019年、ダックワース自身のチームが、ウエストポイントの9学年ぶん、のべ11,258人を追跡した結果を発表しました。長期のデータで、役割分担がきれいに見えています。
グリットが予測したのは、初期訓練を脱落せずに終えるか、4年で卒業まで行き着くか。一方、在学中の学業成績をもっともよく予測したのは、認知能力の指標(標準テストの点数)でした。
つまりグリットが当てるのは「続けるか、やめるか」です。「うまくやれるか」ではありません。
登山にたとえれば、引き返さずに登り続けるかどうかは当てられる。速く登れるか、正しいルートを選べるかは、別の力の話です。
粘り強さの側を育てる
では、現場でどうするか。
効いていた側、つまり粘り強さに寄せて設計します。ダックワースが挙げる実践も、この線で読み直すと使いやすくなります。工程は三つです。
山を一つに絞る
一つ目は、目標の階層化。
紙を一枚用意して、三段に分けます。上段に「登りたい山」。中段に「今学期の中継地点」。下段に「今週の一歩」。
多くの生徒が持っているのは、上段だけです。中段と下段がない。だから「頑張る」以外の行動が出てきません。
ここで大事なのは、上段を増やさないことです。山は一つでいい。二つ書いた時点で、下段に書ける一歩が半分になります。
中継地点の高さは「文化祭で発表する」「校外の人に一度見てもらう」くらい。ここが空いていると、一歩を終えた生徒は、次にどこへ足を置けばいいのか分からなくなります。
一歩の大きさを決める
二つ目は、一歩の決め方です。時間ではなく、回数か範囲で決めます。
楽器の練習で「今日は30分」と決めると、30分の中身は自由になります。指の回らない箇所を避けたまま、時間だけが過ぎることもある。「4小節目から8小節目を、つっかえずに3回」と決めると、逃げ場がなくなります。
授業でも同じです。「探究のリサーチを1時間」ではなく「一次資料を2件、出典のURLごと台帳に貼る」。
粘り強さは、意志の強さというより、設計の細かさに左右される部分が大きい。少なくとも、教員が教室で動かせるのは設計のほうです。
面白い失敗を残す
三つ目は、うまくいかなかった記録を、減点ではなく素材として残すこと。
この線には、まとまった証拠が一つあります。2019年に経済学の学術誌で発表された、イスタンブールの公立小学校52校、4年生3,200人以上を対象にした無作為化実験です。
授業で扱ったのは、脳は使うと変わること、失敗は学びの材料になること、そして目標の立て方でした。
結果、難しくて報酬の高い課題をあえて選ぶ確率が9〜13ポイント上がり、算数の成績は約0.31標準偏差ぶん改善しています。1年半から2年半後の追跡でも、0.19〜0.23標準偏差が残っていました。
ただし、正直に書いておきます。国語系の成績で見えた改善は、時間とともに消えました。
記録の形式は、三行で足ります。「何を試したか」「どこで詰まったか」「次にどこを変えるか」。
「面白い」とわざわざ付けるのは、書く側の気分を変えるためです。反省文の体裁にすると、生徒は書かなくなります。私も書かないと思う。
現場で見えてくること
高校の探究学習に関わっていると、この結論はかなり腑に落ちます。
年度のはじめ、生徒はたいてい大きなテーマを持ってきます。世界とか、地域の未来とか。目は輝いています。情熱という言葉で言うなら、この時点では全員が満点です。
数か月後、続いている生徒とそうでない生徒に分かれます。
差は熱量ではありませんでした。続いていた生徒に共通していたのは、次の一手が具体的だったこと。「来週、あの人に話を聞く」「この資料を読む」。手元に、明日できることが一つある状態です。
止まった生徒は、情熱が消えたわけではないように見えました。次の一歩が見つからなくて、その場に立っている。声をかけると、テーマへの思いはむしろ増えていたりします。
だから伴走の仕事は、情熱を焚きつけることではないのだと思うようになりました。止まったときに戻れる中継地点を、一緒に置いておくこと。
地味ですが、そこだと思っています。
過信しないための注意書き
はっきりさせておきたいことが、いくつかあります。
一つ目。グリット尺度は自己申告です。同じ人でも、自分に厳しいときと甘いときで点が変わります。ダックワース本人が、自分の作ったテストを二度受けて違う結果になったと語っています。
二つ目。比較の基準が、人によって違います。「授業の準備をしてきた」と答えられるかどうかは、周りの水準しだいで変わる。
国際比較では、日本・中国・韓国の回答者が誠実性の自己評価でもっとも低く出ました。まじめでないからではありません。基準が高いからです。
三つ目。ダックワース自身が、グリットを学校の説明責任の指標に使うことに反対しています。
2016年の新聞への寄稿では、研究と自己理解のための尺度を評価に直結する指標へ変えるべきか、私の考えではノーだ、と書きました。その立場から、カリフォルニアの取り組みの助言役も降りています。
四つ目。効果の大きさです。クレデは、成績との相関がグリットで.18、標準テストの点数では.50前後になると指摘しました。ダックワース側も、効果量の説明の仕方については批判を認めています。
五つ目。相関は因果ではありません。粘り強い生徒の成績がよかったとしても、粘り強さが成績を作ったとは限らない。うまくいっているから続けられた、という順序もありえます。
そして、いちばん大事なこと。
続かない生徒を「やり抜く力が足りない」で説明し始めた時点で、この概念は根性論に落ちます。
クレデらは、学校の限られた資源は、成績との関係がより強く、しかも介入で動きやすい変数に向けるべきだと書いています。名前が挙がっているのは、学習方法や、環境への適応、出席。ずいぶん地味なものたちです。
まとめ
- グリットは「情熱」と「粘り強さ」の合成として広まった。しかし73研究・のべ66,807人のメタ分析では、成績を予測したのは粘り強さの側(ρ=.26)だけで、情熱の側は.10とほとんど効いていない
- グリット全体は誠実性とρ=.84で重なり、誠実性を差し引くと成績への上乗せはほぼ消える。ただし粘り強さ単独なら上乗せは残る
- 教室で動かせるのは意志ではなく設計。山を一つに絞り、今日の一歩を範囲で決め、失敗を素材として残す
よくある質問
グリットは伸ばせますか
生まれつきかどうかについては、伸ばせる可能性を示す証拠があります。
イスタンブールの小学校での無作為化実験では、失敗の扱い方と目標の立て方を教える授業のあと、難しい課題を選ぶ確率と算数の成績が上がりました。効果は1年半から2年半後の追跡でも残っています。
ただし、批判側のクレデは、グリットが介入で動きやすいという主張には十分な裏づけがないと書いています。現時点では「有望な報告はあるが、確立してはいない」が正確なところです。
尺度で評価していいですか
すすめません。提唱者本人が反対しています。
理由は二つ。自己申告なので回答を作れること、そして「どのくらいできているか」の基準が人によって違うことです。評価や進路に紐づけた瞬間、生徒は「粘り強く見える回答」を選びます。
使うなら、生徒本人が自分の傾向を眺めるための道具として。集めて並べるための道具ではありません。
誠実性と何が違いますか
正直なところ、統計的にはあまり違いません。相関はρ=.84で、これは別々に作られた誠実性の尺度どうしの相関(.63前後)より高い値です。
ただし、グリットの「努力の粘り強さ」の部分は、誠実性を差し引いてもなお成績への上乗せを持っていました。違いがあるとすれば、そこです。名前を分ける価値があるのは、グリット全体ではなく、その半分のほうでした。
情熱が続かない子には
まず、それを問題として扱わない選択肢があります。
メタ分析で見るかぎり、興味の一貫性——テーマを乗り換えないこと——は、成績との関係がほとんどありませんでした。乗り換えること自体は、指導すべき欠点ではないという読み方ができます。
代わりに手を入れるなら、粘り強さの側です。テーマは変わってもいい。変わったあとに、今週やる一歩が書けているか。そこを一緒に確認するほうが、根拠のある関わり方になります。
参考文献
- Duckworth, A. L., et al. (2007). Grit: Perseverance and passion for long-term goals. Journal of Personality and Social Psychology. https://doi.org/10.1037/0022-3514.92.6.1087
- Credé, M., Tynan, M. C., & Harms, P. D. (2017). Much ado about grit: A meta-analytic synthesis of the grit literature. Journal of Personality and Social Psychology. https://doi.org/10.1037/pspp0000102
- Credé, M. (2018). What shall we do about grit? Educational Researcher. https://doi.org/10.3102/0013189X18801322
- Duckworth, A. L., et al. (2019). Cognitive and noncognitive predictors of success. PNAS. https://doi.org/10.1073/pnas.1910510116
- Alan, S., Boneva, T., & Ertac, S. (2019). Ever failed, try again, succeed better. The Quarterly Journal of Economics. https://doi.org/10.1093/qje/qjz006
- Duckworth, A. (2016年3月26日). Don't grade schools on grit. The New York Times. https://www.nytimes.com/2016/03/27/opinion/sunday/dont-grade-schools-on-grit.html
- Kamenetz, A. (2016年5月25日). MacArthur 'genius' Angela Duckworth responds to a new critique of grit. NPR Ed. https://www.npr.org/sections/ed/2016/05/25/479172868/angela-duckworth-responds-to-a-new-critique-of-grit
- Duckworth, A. (2016).『やり抜く力 GRIT』ダイヤモンド社.


